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STORY

京都における最古の商家、西村家の町家撮影

町家の撮影風景

今回、2日間の撮影時間をいただけたというのはとても有難いお話でした。
写真は、天候に見栄えが大きく左右されます。実際、1日目は、町家を撮るには天気が良すぎるくらいの真夏日だったのですが、2日目は、空が曇り灰色をしていました。もし、この日しかなかったら、外観を撮っても色が映えず、絵的に厳しい状況となっていたでしょう。

商業写真とはひと味違う町家の撮影

建築やインテリアの撮影では、撮影前には、写って欲しくない物の片付けや調度品の整頓、時には掃除といった作業があり、撮影時には、三脚の設置とカメラの水平垂直をしっかりと出すための微調整、そして撮影後の確認で、気になる光が入っていればそれを遮ったり、トレーシングペーパーで柔らかい光にしたりと拘ればキリがなく、1カット1カットに結構な時間がかかます。頑張っても個人的には10カットが目安。それが1日しかなかったら、撮り直しはおろか、構図を考えたり空間を感じたりするクリエイティブな思索時間はなく、ただただ見えたものを機械的に写す作業になっていたと思います。

5月にも関わらず、午前中から気温が30度ほどに上がった快晴の1日目、東向きの建物の陽の当たり具合を見て、恐らく、午後になると陰になってしまいそうなので、まずは外観と門を入って内玄関へとつながる通り庭から撮影を始めました。

建物が面している衣棚通りは、一方通行の細い通りなので、間口の広い建物を正面から撮影しようと思うとカメラの引きがなく、超広角レンズをセットします。しかし、そうなると今度は広い範囲が写ってしまうので、住宅地の撮影ではいつも悩まされる電柱や電線、それから町家には不釣り合いな、現代的なマンションなどが避けようもなく画面に入り込んできます。正面からの撮影は諦めて、それらができるだけ写らないような角度で撮影すべきなのか、写ってしまったものを後からデジタル処理で消せば良いのか、それとも町家を取り巻く現在の風景と環境としてそのままを受け入れるべきなのか、撮影後の今もなお、この迷いは消えません。

主屋の内玄関に続く通り庭は、左側に庭、人が通る中央には平滑な石が敷かれ、そしてその左右には5cm大の那智黒石でしょうか、黒い石が埋め込まれて固められた「たたき」のようになっていています。
アジサイの花が、快晴の直射日光より、雨上がりの柔らかい日差しの方がより映えるように、町家もそうした時が良く似合います。でも、なかなか都合の良い天気にはなってくれません。せめて、カラカラになってしまった敷石とたたきに水を撒きます。そうすることで、黒い石はより黒々と、乾いた敷石は水に濡れて反射したり立体感が出たりと表情が豊かになり、多少はしっとりとした雰囲気が出ます。

この日は、その後、主屋、座敷棟、茶室、蔵と、2階を残し一通り撮影しました。午前中からの撮影でクタクタでしたが、もう撮影の機会がないかもしれないと、夕方の6時を回り日没に近づいた頃、再び玄関に戻り再チャレンジしてみましたが、残念ながら思い描いたような陽は当たっておらず、空の色は白くなっていました。
撮影後、西村さんに写真を一通り見ていただきました。そして、とても気になるご指摘を受けました。

「茶室の戸は閉めるものだ」

知人に「西村さんとこのお茶室からは、2つの庭が見られる」という話を聞いていたため、茶室から見た庭を撮らなければならない、と頭にインプットされていていました。それと茶室の中が薄暗かったこともあり、障子を全開にして、凝った天井や室内のディテールが良く写るように、そして何枚かは茶室から庭が見えるように撮っていました。お茶をいただきながら、きれいなお庭も眺められるんだな…と。
戸を閉めるべき理由に思い当たることはありました。しかし、本当はどうなのか、後で良く調べてみようと思いました。

※調査結果は別の記事「なぜ茶室の戸は閉められなければならなかったのか」に掲載します。

2日間の撮影は終了しました。
茶室の障子は閉めて、他の失敗写真と共に撮り直しました。
棟方志功の絵やバーナード・リーチの皿などが、床の間にさりげなく飾られた30畳はあろうかという広い座敷を、空間としてどう捉えれば良いのか、電気を点けなければ暗い部屋の照明の、どれを点けてどれを消すべきなのか…仕事で撮る商業写真とはまた違った、センスと判断が試される撮影でした。

そして最後に、快く撮影の依頼を受け入れていただき、屋敷の中を自由に撮らせていただいた西村吉右衛門さんに深く感謝したします。またいつかお会いして色々なお話を伺いたいと思います。撮影した写真は、将来、何かの形で有効に使わせていただくことができればと、考えています。

※撮影地:京都市中京区
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