| 自由研究室 |
大谷石とは何か。宇都宮への旅
餃子だけじゃない〜宇都宮へ
宇都宮と言えば…
餃子?
最近、全国消費量ランキングの順位をやや落としているようですが、栃木県宇都宮市は餃子だけではありません。
宇都宮には、かなり昔に一度仕事で行ったことがあり、大谷石でできた蔵や塀、壁などが街中に多いな、とは思っていました。時が過ぎて再び仕事の話があった際、宇都宮情報をじっくりと調べてみると、子供の頃から記憶にある大谷石が宇都宮で採石され、その地下採石場跡が見学できることを知りました。写真で見るその採石場跡は、薄暗く何とも不思議な空間で、「日本にこんな場所があるんだ!」と強く印象に残っていました。
2019年末から数年に渡るコロナ禍からも様々な制限が解除されて脱しつつあり、また宇都宮へは東京からのアクセスが良いこともあって、数年来、気になっていた大谷石とその地下採石場跡を、この機会に目指すことにしました。
大谷石が築く都市文化
宇都宮では、江戸時代から、神社の石垣、寺、蔵、塀などに、大谷石が使われてきたということです。
地下採石場跡へは翌日に行くとし、先ずは駅前から西に伸びる大通りを歩いていました。川を渡る橋の手前まで来ると、小規模ながらレトロな銀行といった佇まいの貫禄ある建物を見つけました。良く見ると総大谷石造り。この建物は何だろうと近づくと、どうやら公衆トイレらしい。さすが… 思わぬ場所で、早速大谷石の洗礼を受けました。
川を渡り、やや遠回りをして通称「餃子通り」抜けて10分ほど歩き、昼食には大谷石造りの蔵を改装したというお店でランチを食べました。
大谷石造りの「カトリック松が峰教会」
この日、目指していたのは「松が峰教会(まつがみねきょうかい)」というローマ・カトリックの教会です。聖堂は、スイス人の建築家マックス・ヒンデル氏の設計により1932年(昭和7年)に竣工。戦時中の空襲により罹災しましたが、1947年に復元され、1998年、国の「登録有形文化財」に、2003年には「うつのみや百景」に選定されました。
日本では数少ない2つの塔を持つ、大谷石造りのロマネスク様式の装飾が施された教会です。
ロマネスク様式とは、11〜12世紀頃の教会建築で、石造りの厚い壁、小さな窓、半円アーチ、豪華な柱頭が特徴とされているようです。後世のゴシックやルネサンス様式に見られる豪華で過剰な装飾に比べるとシンプルで、その土地に根差した教会らしい教会という印象があります。
松が峰教会にもこれらの特徴が良く現れていますが、ロマネスク様式とは評されるものの、大谷石で造られた宇都宮ならではの教会建築とも言えそうです。
有難いことに聖堂の扉は一般の人にも広く開かれています。
ミサや結婚式など何かの行事がなければ、一部のエリアを除き聖堂内を自由に見学することができます。
どなたの姿も見かけませんでしたが、早速2階に上がり聖堂の中を拝見しました。
建物外部の塀や壁はもちろんですが、内部の壁面や柱にも大谷石が使われ、祭壇の背後には、1978年(昭和53年)に完成したというバロック様式のパイプオルガンを備えています。カトリック教会ということで、クラシカルな雰囲気を想像していましたが、マティスのロザリオ礼拝堂とまではいかないものの、モダンな空間という印象を受けました。
窓ガラスを通して差す黄色味がかった柔らかな光と、素朴な表情の大谷石に囲まれ、聖堂内はどこかホッとする空気を感じる場所でした。
その土地の風景とは
ところで、少し余談になりますが。
地元産の何か、宇都宮で言えば大谷石ですが、それらを使ったその土地の風景がつくられる、というのは良いことですね。どこに行っても画一的な現代風の建築物が建ち並んでいるよりも。
写真でしか見たことがありませんが、石つながりだと、はちみつ色と称される「石灰石」のライムストーンで造られたイングランドの村「コッツウォルズ」を思い出します。また建築素材ではありませんが、ガウディで有名なバルセロナは、草木など自然にある造形を生かした有機的なデザインのモデルニスモ様式の建物が、有名無名を問わず街の景観を特徴づけていました。